回遊式日本庭園「水景園」には“人間と自然とのかかわりを表現する”といったテーマが存在します。観点はいくつかあるのですが、今回はそのなかの一つである大地のゾーン「巨石群」について紹介いたします。
*大地のゾーン
切り立った岩壁、岩場・大木等で太古の荒々しい未踏の自然を表象したゾーン。約500個の石が高さ6~7m、全長150mにわたり屏風状に配置されていてその先の紅葉谷まで続いています。
ほぼ垂直に切り立った崖と岩場で構成され、立ち入り難い雰囲気を思わせる景観であると同時に、 石切り場としてのデザイン性も含まれており厳しさのなかにも人の気配を感じさせる趣向となっています。
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石と石の間をくぐりぬけて・・・
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石がごろごろ、石丁場のイメージ
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まさに岩壁!
*石について
瀬戸内海に浮かぶ犬島(岡山県)から運ばれた花崗岩(さび御影)が用いられており、鉄分が溶出した 錆(さび)色が特徴です。巨石一つあたりの重量は約20~40tで、最も重いものは70tに達します。
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錆びのグラデーション
石には鬆(ス)があるのですが、これは瀬戸内海の石の特徴だそうです。
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鬆(ス)には神様が住むといわれている
巨石は平成5年の建設時に船で大阪湾の港まで、そこから夜明け前に大型トレーラーに乗せられ運ばれました。瀬戸内海沿岸の石の産地がもともと海運を利用できる地理的優位性によって発展してきたということを改めて感じさせられるエピソードです。
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石は鉄骨にアンカーで固定された
*採石方法
岩盤から石目に沿って黒色火薬を使って発破によって切り出し、更に切り出された原石を「セリ矢」を用いて割ってゆきます。これらの加工跡は鑑賞対象としての「石のおもしろさ」を演出する一方で職人たちの仕事跡でもあることから、ここでも人間と自然とのかかわりを意識することになります。
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セリ矢を入れたドリル穴跡
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煙硝穴(火薬を詰めるための穴跡)
*昔は・・・
日本各地の産物の採取や生産の様子を図解した『日本山海名産図会』(寛政11年(1799))には「摂州御影石」が紹介されていて、その文中には加工方法について触れられています。
『切り取るには矢穴を掘りて矢を入れなげ石をもつてひゞきの入りたるを 手鉾を以て離し取を打附割といふ また横一文字に割るをすくい割とはいふなり』
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日本山海名産図会 (国立国会図書館デジタルコレクションより転載)
絵を見ると、道具は変わっていても基本的な切り出し方法については現代と大差は無いようです。 (矢の材質は樫(カシ)などの堅い木 → 鉄 → セリ矢へと時代を経て変化)
切り出された石は、近隣から遠方まで運ばれ、城郭の石垣や墓石、鳥居などにも使われました。 昔人の苦労と技術力の高さが偲ばれます。
*好きな石を探してみる
園路を歩きながら、特徴的な石を探してみました。
顔に見える石
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長い矢穴が口のよう。鮮やかな紫の発色が素敵です。
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雨降り時は泣き虫に。。
割れた石
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左右二つに割られているようですが、 もとある石の姿に合わせて据えられています。
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バラバラにならないように、 セットで搬送されたのでしょうか。
瀧石を担う
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一つの石で、上からの水を一旦受けて、下へ流す…。 自然の凹凸が上手に活かされています。
兄弟(姉妹)石
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ギザギザした形状や表面の模様から、 割られた後のお隣どうしとみられます。
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錆びの具合にも連続性があって、面白いですね。
目隠しの石
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巨石群の奥に広がる紅葉谷。 その入口の手前にそびえる巨石。
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視線を遮ることで次への期待感を持たせます。
石橋
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紅葉谷に架けられた石橋にも矢穴の跡。
季節や気候によっても見え方が変わります。
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朝霧に包まれる巨石群
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雪が自然の「荒々しさ」を強くします。
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夕日を受けて、石は柔らかな表情に…。
*最後に
石について、こんな言葉がありました。
~過去の記憶である石の切り方が、集落や建築の様相を決めることもある~ 『原広司、集落の教え100』
石と人間との歴史を辿れば、250万年前にまで遡ることができるそうです。目の前にそびえる巨石を見ながら遠い過去に思いを馳せることが出来たならば…、それは、このお庭の設計コンセプトでもある「自然 – 人間関係と“時の流れ”を超越する」に通じる、いわば設計者の視座に立ったともいえます。
お庭の楽しみ方のひとつとして、水景園の巨石群で「遠い昔」を想ってみては如何でしょうか。