現在開催中の展覧会、『伊砂正幸・宮木康作品展 ―そら―』。
今回は「そら」をテーマに型絵染の伊砂先生と漆芸の宮木先生に作品を展示いただいています。
どこまでも広がる「そら」に思いを馳せ、空を見上げたその時の情景や空に感じた心の情景、そこに見えた形や物語が、ぞれぞれの工芸技法によって表現されています。

個人の感想・感覚ではありますが、少し展示内容をご紹介させていただきます。

 

 型絵染は和紙や布などの素材に型紙を用いて防染糊でマスキングして、彩色を繰り返す技法で、伊砂先生の作品は具体的なモチーフや文様、季節や物語が表現されています。型絵染の技法については過去に伊砂先生の企画展でご紹介していますので、こちらのブログも併せてご覧いただくと様子がお分かりいただけると思います。
 作品に描かれているのは、普遍的に空に存在する星々や太陽・月と、それらが放つ光、そして変わりゆく風景や自然、人間の情景です。柔らかく包み込むような色彩で変化に富んだ「そら」を楽しめます。自然の一部である私たち人間、そして万物に「そら」は平等なんだな、と感じることができます。きっと描かれた「そら」にはゆっくり流れる時間が感じられ、心穏やかに作品を見ている自分に気づかれるのではないでしょうか。

自然界の実際の空を考えると、急激な変化を見せることもあれば気づかないくらい緩やかな表情の変化のこともあります。これら移ろいゆく瞬間が絶妙に画面に捉えられていること、またこの移ろいゆく様子を私たちが無意識に想像することが、画中に時の流れを感じさせるのだろうと思います。

 

 伊砂先生とは対照的に「そら」を捉えた漆芸作品の宮木先生。空模様、色あい、時間帯など、たくさんある要素をシンプルに絞り込み印象的に形にされています。その分、私達鑑賞者は自分の感覚で様々な想像を巡らせることができるのです。『包む風』のシリーズは空を行く「風」に特化して制作されています。普段は意識しませんが風に形を感じ、風のたなびく通り道を感じます。

『そら』のシリーズは、私にはその時の空の風景・時間が反映されているように思えます。貝が輝いて、宇宙や銀河も想像しました。どこか、伊砂先生の『七夕の空』に通じるものがあるのかも、と勝手な連想をしてみたり。

この流れるような形状、音を奏でるようなリズム、どんな時間帯のどこの空なのだろう、と考えを巡らせると楽しくなります。そして、漆黒の漆に映りこむ周囲の空間もまた、「そら」を表しているように思えませんでしょうか。実際の空も太陽や雲、大地の空気を映して移ろうように感じるのと同様に、周りの空間を取り込むように写し込む艶と奥行きが空なんだな、と。

余談ですが、漆と聞くと「器」をイメージされる方が多いと思いますが、「手になじむ」は器でも宮木先生の立体でも同じだそうで、先生も作っていく中の”手の軌跡”、”手におさまる、体に馴染む形”というのを大切に形づくりをされているとのことでした。柔らかく暖かい形状はそういうところから生まれるのでしょう。

(朱は塗られていませんが、隣接作品や展示物を映し込んでいます。)

 

 

(絵画作品や天井、空間といった映りこみはねじれや湾曲のある形状ならでは)

 

ここで、素人の聞きかじりですが、漆芸の技法について少しご紹介です。

宮木先生の作品は「乾漆」という方法で制作されています。奈良興福寺の阿修羅像も、同じ技法です。一般的には麻布や和紙を漆や、漆と木粉、漆と糊や泥を練り合わせたものを貼り重ね、塗り重ねて形作る方法です。中でも、芯材を取り除くものを脱乾漆と言います。さらに、宮木先生の制作工程をうかがうと、下地に麻布の目が出ないくらい滑らかになれば漆を塗り重ね、研ぎ出して艶を出す、作品によっては貝を貼ってさらに艶出し、という繰り返しの作業も含めて全60以上の工程があるそうです。貝を貼るに至っては、ばら撒くのではなく、美しく光る向き、並びを見ながら、小さな貝片を1つずつ並べていかれるとのこと。だからこんなにも揃って何ともいえない光を放っているのだな、と思います。

これらの行程に要する期間は、3~5ヶ月とのことです。型絵染もそうですが、漆芸もまた、人の手と時間の積み重ねで生まれます。美しいものは簡単には生まれない、ということを痛感します。

 5/3・5のワークショップでは、これらの作品制作工程や道具のお話、作品の着想など、宮木先生から直接お話をおうかがいしました。先生方が在廊の日程にご来場の方は、ぜひ作品を前に直接お話をお聞きいただけたらと思います。

 

 

今回は、ギャラリーでなかなか展示させていただく機会がなかった漆芸の宮木先生と、年に1度の楽しみにされている方も多い伊砂先生のコラボ展示です。こんなに間近で本物に出会えるこの機会、ぜひお見逃しなく。

本展は5/9(火)まで毎日開催しております。


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