夏の暑さも少し和らぎ、秋が近づいてくるとあちこちで虫の音が聞こえ始めます。

エンマコオロギ:身近なコオロギのひとつ、コロコロリーと鳴く。

童謡「虫のこえ」に代表されるように、日本人にとって秋の鳴く虫たちは季節を感じる身近なものと言えるでしょう。しかし、世界中のほとんどの人は虫の音が雑音にしか聞こえず、機械音などの騒音と同じように感じるそうです。

一方で、日本人が虫の音や波、風、雨の音などの自然の音も心地よく感じます。この違いは音を処理する脳の部位によるもので、日本人が虫の音を左脳で言語(虫の声)として処理しているのに対し、日本人以外の大多数の人たちは右脳で音として処理しているためだと言われます。

この感覚の違いは文化の違いによるもので、西洋では「虫=害虫」というイメージが強いのに対し、日本では古くから虫の音を楽しむ文化が根付いていました。

特に虫の音を楽しむことが一大ブームとなったのは江戸時代で、昭和初期まで世界的に見ても特異な文化として発展してきました。特に江戸(東京)では年中行事として「虫聴」が楽しまれており、1858年に発行された『江戸花鳥暦』では、お茶の水や巣鴨などが虫聴名所として紹介されています。

また、1911年に発行された『東京年中行事』では「~紅の毛氈(もうせん)を敷かせて割籠(わりご:白木で作られた折箱風の弁当箱)を開いて瓢箪(ひょうたん)の美酒に舌鼓を打ちながら、喞々(しょくしょく)と月に吟ずる松虫鈴虫の音に風流を思ひやることが盛んに行はれたのであるが~」と優雅に秋の夜長を楽しむ様子が記されています。

また、この頃には虫の音を身近に楽しむため、コオロギやスズムシなどを販売する「虫売り」という商売も登場しました。行商のように虫を売り歩くものもあれば、店を構えて様々な虫籠に虫を入れて売っていたものもあり、関東大震災を経て戦後まで庶民の楽しみのひとつとなっていました。

様々な虫籠が所狭しと並んだ店

 

同じアジアの中国では、鳴く虫であるコオロギを戦わせる虫相撲「闘蟋(とうしつ)」という文化はあるものの、虫の音を楽しむ文化は定着していないようです。

9月から10月にかけて、街中や公園、森や林で様々な虫の音を聞くことができます。

ホシササキリ:草むらでシリシリ・・・と鳴く

アオマツムシ:大きな声でリーリーと鳴く

カネタタキ:屋内でも見られ、チンチンチン・・・と鳴く

虫の音に耳を傾けながら、自然を生活の楽しみや文化として発展させた人々に思いを馳せるのもいいかもしれません。


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