暑い暑い夏、いかがお過ごしでしょうか。
近年の長い暑さは、公園内の生き物たちにとってもかなり過酷な季節です。そして我々人間も、暑さ対策を万全にして気候変動に敏感にならなければ…というような時代に差し掛かっているのかもしれません。当園にお越しの際は、木陰や休憩スペースの東屋、施設内でどうぞ休息・水分補給を十分にしてくださいね。そのなかでもビジターセンターは水景園受付横にあり、無料でお入りいただけます。しっかり休憩していってください。階段やエレベータを下りた先には、小さなお子様用の絵本や日本の四季を大切にした暮らしを紹介した書籍をはじめ、公園紹介動画、淡水に生息するお魚水槽もあり、ほっと一息ついていただける休憩スペースをご用意しています。ママロもご用意していますから、乳児とご一緒の保護者の方もご利用くださいね。
そんなビジターセンターですが、小さなお子様を連れたご家族やシニア層のお客様には、入口に設置した「おもちゃ(基本的にはひとつ100円)」のコーナーが人気です。紙風船や昆虫型のおもちゃ、シャボン玉などなど…懐かしさ満載のセレクトです。
今回は、商品紹介ではなく(笑)、このおもちゃ付近に植栽されている「ソテツ」についてのお話しです。
【写真❶2024年8月現在のソテツの様子です】
京都府内の庭や玄関先の植木鉢などで見受けられることも多いこのソテツ。生育旺盛で土壌を選ばず、桃山時代~江戸時代には庭園樹として人気を博し、長く親しまれてきました。著名な日本庭園ではその樹齢によって幹が大きく成長したものも見受けられ、印象的な景観を織りなします。青々と葉を茂らせた夏、菰まきによって職人の技が活きる冬の姿…季節によって変化するのもソテツのあるお庭の魅力です。昨年の12月には「水景園の見どころ」としてほかのスタッフもご紹介していますので、合わせてお楽しみください。それではソテツのよもやま話。ぜひ、最後までお読みください。
■ソテツの特徴~暮らしと共に~
ソテツは裸子植物のソテツ目ソテツ科ソテツ属の常緑樹です。樹高は3m~4m、大きいものは10mほどにまで成長します。葉の形状はヤシに似ており、円柱状の幹の先端に四方へ広がります。葉の表は光沢感があり深い緑色ですが、裏側は細かい毛に覆われ、淡い褐色です。枯れた葉が落ちた幹は、うろこ状に見え、高温と乾燥に強いことも大きな特徴です。そのため、耐寒性が高い訳ではありません。日本では宮崎県以南や沖縄県、そして台湾、中国大陸南部の亜熱帯~熱帯に自生しています。
さてソテツの葉は、堅いことで有名ですが新芽を出したころは、ふにゃふにゃです。
【写真❷※このソテツは公園の植栽ではありません。参考程度にご覧ください】
成長するにしたがい、葉の一枚一枚は鋭く尖っていきます。触るとよりその堅さが分かりますし、気を付けて触れなければなりません。堅い葉を持つソテツはかつて、日々の暮らしを支える様々な場所で使用されました。例えば、鹿児島県の与論島や沖永良島、喜界島などの山林のない島では燃料として使用され、奄美大島では暴風を防ぐためや畑の境界のための生垣として植えられていました。また、葉を「緑肥」として細かく切って田んぼに入れて踏み込んで肥料にしたというフィールドワークの報告もあります。
そのほか沖縄県の粟国島では、ソテツの葉を編んで虫かごにした事例もあり、南日本の暮らしでは身近な植物でした。
■ソテツの実~産毛のようなふわふわに包まれたピンク色の種子
けいはんな記念公園では昨年、このようなソテツの花が付きました。
【写真❸こちらの画像は、昨年の公園のソテツです】
ひだひだの小さな葉っぱのようにみえる大胞子葉と呼ばれる雌しべの原初形態のなかには、包まれるように種子が実ります。大胞子葉は柔らかく、ふわふわしています。また、一度開花した株には数年間、花が付かないとされています。雌雄異株ですので、複数の株が植えられている場合が多いです。
そしてこのソテツの実、奄美諸島や沖縄諸島では、食料に使用されてきた文化があります。しかし種子には有毒成分が含まれているため、長時間水にさらし、発酵、乾燥処理をすることによって飢饉等の食糧難を凌いだ過去があるのです(公園などで見かけられても絶対に口になさらないようにしてくださいね)。昭和30年代頃には、あく抜きをした実を粉にした「ナリ粉」を小麦粉の代用にしたり、粥にして食べたり、各家庭で「ナリミソ」と呼ばれるソテツの実を素材にした味噌もつくられ、みそ汁やお酒のアテとして身近にありました。
■庭園とソテツの関係
先程も紹介したように水景園受付前の石組の景観に緑をそえるソテツですが、日本庭園の植物としては比較的馴染みのある植物です。京都府内では、西本願寺の大書院庭園や桂離宮、仙洞御所、二条城の二之丸庭園、城南宮の楽水苑などが有名です。
『蔭涼軒日録』の長享2(1488)年9月16日の条の一部には次のようにあります。
大内の庭にそてつと云う草あり。高麗より来たる。かぶより葉出でて、一間にはばかるほどなり。ぜんまいの大なるような者なり。
武家屋敷の庭にソテツが現在の中国から持ち込まれて植えられていたことが記されており、中世には既に知る人ぞ知る植物であったようです。
そして江戸時代には、ソテツの個性的な樹形が庭園の見どころとして人気を博したことがかの有名な歌川広重作の『東海道五十三次』などから分かっています。
庭園におけるソテツの存在は、貴重で珍しい植物を搬入することで、時の為政者の政治・経済面の大きな力を暗示させたのでした。
皆さんもお庭に植えられたソテツに出会った際は、これにまつわる歴史や文化に想いを馳せて観賞してみてはいかがでしょうか。