コウヤボウキの種

フキノトウ

カマキリの卵嚢

柿にやって来るメジロ

 

この季節、園路周辺にある植物・生きものに自然と目が行きます。越冬中の虫たちや春に向けた準備をする植物たちです。年間を通じてご来園の方は「これは秋に実が成っていた」「春に花が咲いていた」「○○の種ができている」といった季節をまたいだ楽しみを既にお持ちかもしれませんね。生き物好きな方は「冬にだけ出会える光景」にワクワクする方もあのではないでしょうか。歩くことに一生懸命になっていると気づかずに見過ごしてしまうかもしれませんが、冬には「見るものがない」わけではなく、「見つける楽しみ」がたくさん隠れている、というほうがいいようにも思います。

 

 

 

クヌギ

モミジ

ハナミズキ

ハクモクレン

 

特に気になるのは草木の芽。こんなに寒いのにもう春支度をしている、と思うと、私達も縮こまっていてはいけないな、と思うのです。いわゆる新芽・花芽は四季を通じて草木にできては開いていくものと思うのですが、冬につく「芽」は何だか特別感があります。エネルギーをじっとためて春の芽ぶきや開花を静かに待っているというか。

冬芽(ふゆめ・とうが)は、見たところ春や夏につく「芽」とそれほど変わらないようにも思えます。ところが実は冬越し専用に作られる芽だそうで、春夏に出る新芽とは中身が異なるのだそうです。

 

 

冬芽は葉を落とした枝に付いているカプセルのような殻のあるもので、中には折りたたんだ葉や蕾が入っています。葉になるものを「葉芽(ようが)」、花になるものを「花芽(かが)」といい、種によっては両方が一つの芽や一か所から出る「混芽(こんが)」というのもあるのだとか。

これらの芽は芽鱗(がりん)といううろこ状や毛が生えているもの、ぐるりと芽を覆うものなどのカバーで保護され、厳しい寒さや冬特有の乾燥に耐えるようにできているのだそうです。この芽は、夏頃から小さく姿を現していて、育った芽は落ち葉の頃になると目立つようになります。桜の木などに次の花芽ができていて「もう準備が始まっている」と感じたことがあるかもしれませんね。春には芽生えてくる、枝や葉や花のもとになるものが木の芽の中で守られている、これが冬芽です。

芽鱗は少なく花芽は大きくふっくらして、ふさふさした長い毛で覆われている。葉芽は細く毛も短め。コブシ(谷あい)

芽鱗が少なくカプセル状のような、無毛の花芽。ヒュウガミズキ(水景園)

幼い葉がむき出しの葉芽。アジサイ(紅葉谷)

 

 

ほぼ「お休み中」状態の植物ですが、この小さな冬芽からも”何の植物か”を判別する方法があるそうです。私たちはここに春夏何があったか、どんな花だったか、を知っていて歩くのですが、初めてお越しの方でも「冬芽」の見分けができれば、春になったらどんな花が咲く、どんな新芽が開く、というのが想像できてより楽しくなるのではないでしょうか。

 

木の大きさ(高さ)やつる性のものかどうか、枝先が太いか細いか、など大きな分類は冬芽でない時と同じですが、冬芽の特徴というのがあるそうです。

①芽鱗(冬芽を覆う殻のようなものがうろこ状かどうか)

②冬芽の付き方(枝に左右交互に付いているか、対になっているか)

③冬芽の形、毛の有無

④葉痕(前年の葉が付いていた後。よく「顔に見える」と写真があがっています)

等々・・・。

 

公園の身近な種類だと、ざっくりですが次のような特徴があるようです。

種類 ①芽鱗 ②冬芽の付き方 ③冬芽の形・毛 ④葉痕
(維管束痕)

バラ科・

サクラ類

多い
うろこ状
交互。複数かたまって花芽が付くものが多い。

毛は種類による。
比較的尖った花芽。

3個
ツツジ類 多い
うろこ状
分類は交互、花芽は枝の途中より枝先に付く(頂芽)。 毛は種類による。
ちょっとふっくらした水滴形。
1個
ブナ・コナラ 多い
うろこ状
交互。枝先(頂芽)には複数の葉芽がかたまって付く。 短毛があるものが多い。小さな尖った水滴形。 多数
カエデ類

種類による

対状。枝の節ごとに対に小さな冬芽が付き、枝先には複数。

蹄のような先が尖った水滴上

3個

(以下は写真をクリックすると拡大でご覧いただけます)

<スモモとサクラ(ソメイヨシノ)/ニワザクラとオオシマザクラ>

 

 

<モチツツジ、ドウダンツツジ、コバノミツバツツジ>

 

 

<クヌギ>

 

 

<ハンノキ>
※垂れ下がっているのは雄花、雌花の冬芽は葉芽の近くのブツブツした小さいもの(裸芽)。

 

 

<カツラ>
芽の出具合で雰囲気が違うが、枝脇から蛇腹状の被覆を経て葉芽が出る。

 

 

<イロハモミジとハウチワカエデ>
冬芽の根本あたりの状態が異なる。有毛の膜質鱗片の被り具合など。

 

 

<ヤマボウシ>
※丸みのあるものが花芽、細い尖ったほうは葉芽。

 

では、あたたかくしたら目覚めて開くかというと、冬芽についてはそうではなのだそう。寒い冬を超えて何をシグナルに開きはじめるのか、不思議だと思われませんか。

夏芽は気温と日照でどんどん開いて伸びますが、冬芽は休眠するようにセットされていて温度を上げても開いてくることはありません。反対に、寒さによって「休眠する植物ホルモン=アブシシン酸」が分解されないと活動開始しないのだとか。関西や関東の桜が、沖縄や九州より早く開花することがあるのも南の桜に “寒さが足りない” ため、ということがよくあるそうです。桜だけでなく、冬芽をつくる植物は寒さを経て気温上々することが「目覚めのシグナル」につながっている、ということでした。

サクラの花芽に積もる雪

長い霜が毛のように覆う紅葉の枝

霜が降りてうっすら白くなった冬の朝

 

ウメや一部のサクラのように「花が先、葉が後」で開くタイプは花芽の成長より葉芽の成長がやや遅れるため、葉と花が同時に芽ぶくことがないのだそうです。これもまた不思議で、葉が出て光合成で栄養を蓄える前に花を咲かせて結実するのはエネルギーの効率として・・・と思ってしまいます。でも意外に、実をつけて子孫を残すための活動と、栄養を蓄えるための光合成などの活動が一致しない、順番がちがうように見える(実際は前年の秋までに十分花芽と結実の栄養がストックされている)という種類はあるようです。また栄養と果実を作る関係より受粉の可能性(風や虫の状況)を優先して、葉に隠れず花を目立たせる動物媒介や花粉を葉が遮らないで風に乗せて運ぶ風媒介など、植物なりの戦略があるのだろう、とされています。

また、春告げと言われる梅が桜に比べると長期にわたって花時期があるのは、虫が少なくかつ他に花が少ない時季に鳥に媒介してもらうため、気長に花を咲かせて待っているそうです。

 

そういったことを全て計算済みで冬芽が作られ成熟していくのが今の季節、と思うと寒くても頑張れる気がしてきます。目立つ要素が少ないようで、道行く先々でこの季節ならではの景色や風物に季節を感じ、自然を感じていただけるのも公園ならでは。ぜひお気に入りの春待ちルートを歩きにお越しください。


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