サクラのシーズンは、多くの皆さまにけいはんな記念公園をご利用いただきました。ありがとうございました。無料エリアの芝生広場や遊具周辺では、ピクニックや散策、運動の傍らにサクラを愛でていただき、有料エリアの水景園では、アカマツやシロスギの常緑樹を背景にした日本の春の景観をお楽しみいただき、嬉しく感じています。公園利用者の皆さまと共に、「日本の原風景」や「日本の文化」をこれからも大切にして参りたいと思います。

さて、4月19日は二十四節気の「穀雨」です。田畑を潤し、穀物の成長を促す雨が降る頃とされています。

サクラに続き、園内各所では多くの植物が順次開花の季節を迎えました。そのなかでもイチオシで紹介したいのがフジです。フジは遊具広場(芝生広場)、観月楼のエサやりデッキ付近(水景園)でご覧いただけます。薄紫の花弁は、スイートピーやルピナス、公園内の植物でいうとシロツメクサと同じ仲間のマメ科です。お時間があればゆっくりと観察してみてくださいね。フジの花は、ソメイヨシノほどではありませんが、古くから日本の春を代表する植物として愛でられてきました。
それでは、今回は和歌、民俗、華道といった日本文化の切り口から、フジにまつわるお話しを紹介します。このなかで、これまで日本で大切にされてきた生活の営みを感じていただけたら嬉しく思います。

■和歌
日本最古の和歌集である『万葉集』には、藤を題材にした歌が26首あるとされています。そのなかから、奈良のフジを詠んだ歌を紹介しましょう。
・藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君/大伴四綱
 意味:フジの花が波打つようにたくさん咲きました (貴方も)平城京の都を想っているでしょう

大伴四綱は、現在の福岡にあった大宰府に属して防人司に務めていた人物です。この四綱の和歌単独では、フジが咲き乱れる光景に乗せて親しい人を案じる様子がうかがえますが、その後の歌も合わせて考察すると、当時の政治権力によって翻弄され、左遷された人物の心が直情的に伝わってくるでしょう。植物は昔も今も暮らしの傍らにあり、人々の悲喜こもごもが仮託されるほど、身近な存在だったのです。

■民俗
つづいては、生活のなかで定着した民間の習俗から、フジのあれこれを。
春に開花する植物は、農の営みのなかでも豊作を予祝したり、稲作の開始を迎えるサインとして日本各地でさまざまな伝承が残されています。現在、お釈迦様の誕生日として認識されている場合が多い4月8日の「花まつり」ですが、中国・四国地方、近畿地方では、この日に「テンドウバナ」という習俗が伝えられています。春に山野で咲く植物を花束のようにして長い竹竿の先端に付けて太陽に捧げ、山から里に下りてくる神様の目印にして、農作業のはじまりや五穀豊穣を祈願したのです。そのなかの植物に、ウツギやヤマブキの他、フジの花などの季節の花々が使われました。
その他、フジはその蔓状の樹勢から木々に絡みついて成長する特徴があり、開花期には遠くからでも確認できるほど生育旺盛な植物です。そのため、新潟県の佐渡島では、「フジが咲くとコダイが獲れる」とも伝えられています。

■華道
春の山々や公園等で目にする機会の多いフジですが、切り花としてお裾分けをもらったり、場合によっては買い求めた経験がある方がいらっしゃるかもしれません。そして切り花のフジは、あっという間に萎れるという経験をされた方もあるのではないでしょうか。
これまで紹介したように、フジは古くから日本のなかで親しまれ、江戸時代には室内でいけばなとして鑑賞されるまでになりました。当代の華道人は数々のフジのいけばなを絵図に残しています。その姿は自然界でフジが他の植物に寄生しながら(絡みつきながら)成長する姿を表現した「藤掛松」という表現方法で、マツにフジを絡みつけています。この時、花材とするフジは大切に養生され、少しでも長持ちするような工夫が施されているのです。
そのなかからひとつを紹介すると、日本酒を用いる養生です。方法としては、フジの切り花の切り口を繊維状になるように叩き割り、その切り口を日本酒に数時間漬けておくと、水だけで養生させるより、花のハリが違うのです。
フジの切り花が手に入った場合は、一度お試しください。
※公園の植物は、木の実や落ち葉等を除き、持ち帰りは禁止しています。

ぜひ、けいはんな記念公園の春を彩るフジの花をご観賞ください。
みなさまのお越しをお待ちしています。


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