みなさんは毎日、ご飯を食べていますか?
かつてはご飯=炊いた白い米という意味での認識だったようですが、現在ではご飯=食事全般、そして白いご飯を示す場合には、「白米」、「コメ」と表現することも散見できます。炊き立てホカホカの白いご飯は、甘くて粒も立ち、何よりのご馳走です。新米の季節などは、有名産地で収穫されたものが店頭やオンライン上でも並び、個人的には嬉しい季節です。どんなおかずを合わせようか、チャーハンや炊き込みご飯もええなぁ~と。
昔も今もコメや野菜、果物など収穫を待つ心は普遍でしょう。

さて、今回は水田で育つ稲にまつわるおはなしを民俗学的視点からご紹介します。5月下旬には、けいはんな記念公園の水景園内でも田植えに向けた準備が行われました。里棚田の荒起し、畦塗り、そして水が引かれてから田植えです。今年度は6月8日に行う予定で、農作業体験を親子で体験できる「つちのこ隊」のみなさんと一緒に行っています。これは日本の原風景を愛でるだけでなく、農作業を体感しながら、食や農の文化を知ることのできるイベントとして長年親しまれてきたけいはんな記念公園の特色ある事業です。
今回は、そんな水田にまつわるよろず話です。

■水口祭~けいはんな記念公園近隣の苗代準備で見られる光景~
皆さんは、「水口祭」をご存知でしょうか。スマホやPCの検索ワードで調べると滋賀県甲賀市水口町で4月中旬にみられる曳山の行事ですが、今回ご紹介する水口祭は、田植え前の苗代の成長、秋の五穀豊穣を予祝した民間習俗を示します。写真をご覧ください。
これは精華町で2024年に確認された事例です。先ず写真❶から紹介しましょう。常緑樹の松や季節の花の代表格のコデマリやシランを御札と共に立てています。そして写真❷はキンギョソウやナデシコなどやはり季節の植物とお札を立てています。そして写真❸はかなり苗代は成長しており、水口に立てていた植物も時間が経過しています。シランなどが確認できます。

水口祭 写真❶

水口祭 写真❷

                                        水口祭 写真❸

地域や家庭によって水口祭の形態は変化しますが、一貫しているのは、田んぼに水を入れる(水口)に季節の植物と御幣や神符を一緒に立てること、苗代付近で行うことです。素朴なこの民間習俗ですが、古くから行っていたことが感じられるかと思います。江戸時代の文化年間に幕府の御用学者から日本各地の習俗について問うた質問書『諸国風俗問状/しょこくふうぞくといじょう』に対する答書(『諸国風俗問状答』)には、当時の衣食住に関する様々な習俗が確認され、現代の日本でも継承されている文化・習俗が散見されます。けいはんな記念公園のある京都・大阪・奈良の事例ではありませんが、現在の三重県鈴鹿市にあたる白子で回答された『伊勢国白子領風俗問状答』には、江戸時代の水口祭の一端を確認できます。「苗代に種をまくときには、水口に酒と洗米(または焼き米ともいう)供える。これを鳥の口という」という事例が紹介されており、この時既に農耕習俗として定着していたことがわかります。ちなみに、焼き米を供えておくことは、苗代用に蒔いた籾を鳥が食べないようにという意味もあるのです。
農機具の発達、さらには農業自体のIT化も加速した現代、今後は精華町で見られたような水口祭の事例も消滅するかもしれません。その前にこのような習俗を記録できたこと、皆さんに紹介できたことを嬉しく思います。

■田植え前の里棚田~荒起こし~
さて、けいはんな記念公園の田植え前には、荒起しを行います。荒起こしは田んぼの環境を整えるために重要な準備のひとつで、田の上層と下層を反転させるように入れ替えることを目的にしています。また一般的には、乾土効果による根張りの促進、鋤き込まれた有機物の分解効果で、養分の生成が見込まれています。この写真は、景観演出部のIさんが2024年5月18日に荒起こしを行った様子です。
昔は、馬や牛に犂を引かせていた作業も、現代ではトラクターに変化していますが、公園の場合は耕うん機です。ぜひ、5月末から6月にかけて変化していく里棚田をお楽しみください。

 


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