20日までギャラリー月の庭で開催の『第13回 相楽木綿作品展』。公園の観月楼に拠点を置いて活動されている相楽木綿伝承館さんの会員様・生徒様による作品展です。
相楽木綿(さがなかもめん)は、明治から昭和初期にかけて相楽村(今の木津川市)で農家の副業として織られていた手織木綿で、昭和5年には絣模様5200反、縞模様14800反もの生産が記録に残っているそうです。特に絣は京都府内の96.2%を相楽地方が占めていたとか。それが一転、戦時下になると糸の確保が難しくなったこともあり衰退の道をたどったということです。
この貴重な伝統文化を後世に伝え再興するために活動されているのが相楽木綿伝承館さんです。
完全に途絶えていたものを復興再現するきっかけは2004年の山城郷土資料館での企画展「相楽木綿」。この展覧会で終わりにならないように、残された資料や裂(きれ)から絣(かすり)や特徴的な技法を読み解き復元方法を模索する中で、絣括り(かすりくくり)のお仕事をされていた99歳の方から絣括りの方法を教えていただいたのが、唯一の伝承者との出会いだったそうです。そして、研究を深め当時の柄の再現や技術の探求を進めていかれました。活動の甲斐あって、相楽木綿は令和2年に京都府の指定無形民俗文化財に指定されています。
相楽木綿には無地・縞(しま)・絣(かすり)の種類がみられますが、
・縞糸に多くの色々を使用していて華やかである
・絣が多用された柄が多い
とされています。
途絶えていた工芸技術を復興する、ということはその用途も復活の必要があります。だからこそ、相楽木綿伝承館さんでは、布を織るところで終わらずできるかぎり何かの形に、使用できるお品に仕立てて展示しておられるのだと思います。
相楽木綿は上等な木綿織物なので、昔は嫁入りの時に買ってもらった、というお話がよくあったそうです。これも「使うために持たせる」のです。昔は「大切に使い受け継ぐ」という習慣・文化がありましたが、大量生産・大量消費の時代になり、生活用品全般が消耗品となりました。豊かさの象徴かもしれませんが、心の豊かさが失われつつあるのかもしれません。
工芸作家さんの会議に同席させていただいた時に、「良いものをよく永く使う」「永く使いたいものを求める」という文化がなければ日本の工芸は廃れる、というお話をされていたことを思いだします。使うことで手仕事のあたたかさや味わいを知り、使う人の周りにもそのことが伝播してゆき、その技術の価値が認知されていきます。展示期間中、在廊くださる相楽木綿伝承館のみなさんは相楽木綿のお着物をお召しになっています。まさにこれがその最たるものではないでしょうか。また、展示されている日傘は着物よりも日常生活に近いところの「用の美」だと思います。
作品をご覧いただくにあたり、キャプション等での情報表記を少しご紹介します。
織物の場合、タテ=経・ヨコ=緯と表記します。地図の経度(東西=縦方向)・緯度(南北=横方向)も同じ漢字ですが、実は織物の経/緯が先で、この表記から地図の経緯になったと言われています。経緯(けいい)と読んだ場合の意味として、物事が絡み合った事情のことをさし、経緯(いきさつ)とも読みます。相互に関わりあって一つの事象となる、というところから来ていると考えると、糸が1枚の布になるタテ・ヨコは互いの規則正しい関係性と調和で成り立っているという織物と通じるところがあります。これに従って「経縞(たてしま)」はタテ方向の縞柄、「緯絣(よこがすり)」は横方向に絣柄、という意味になります。
糸については「14番単糸」「30番双糸」という表記が出てきます。数字は糸の番手=太さです。糸の番手は材質によって設定が異なり、毛、綿、麻、でそれぞれに法則があります。綿糸の場合、1ポンド(約453g)の重さで840ヤード(約768m)の長さが「1番手」で、同じ1ポンドでも長さが1680ヤード(1番手の倍)の長さになると2番手と言いいます。 つまり、数字が大きいほど1本が細い糸ということなんです。
つづいて機(はた)ですが、展示作品は「大和機」か「ちょんこ機」で織られています。大和機は江戸時代に「奈良晒し(ならざらし)」という武士の裃などに用いられていた高級麻織物を織っていた織り機です。明治になり「奈良晒し」の需要が減ったためこの地域はこの織り機で織られた木綿織物「相楽木綿」を生産するようになったそうです。ちょんこ機は大和機を改良された織り機です。どんな違いがあるのか、相楽木綿伝承館で見学させていただくこともできますので、開館日(基本毎週日月木金)に訪問して織っておられる様子を見せていただくのもいいですね。
今回の相楽木綿の日傘は作品展終了後も伝承館(水景園観月楼地階)でご覧いただけるとのことです。
1年に一度開かれるこの作品展は、地域の伝統工芸と文化、精神を形に繋ぐ活動の成果です。
本日20日16:00までですが間に合えば皆様も、この味わい深い伝統織物をじっくりお楽しみください。
(相楽木綿伝承館のご紹介ページはこちらから)