日本庭園は「人と自然と時間の共同作品」と評されます。その作品の一つといえるのが「しつらえ」。

今回は、職人たちが手掛けた「しつらえ」をとおして、彼らの感性や美意識について触れたいと思います。

◉「しつらえ」とは?

しつらえの意味は「用意、または準備。」。また、建築用語としての「室礼(しつらい)」は、「平安時代、宴や儀式などを行うハレの日に、寝殿造りの邸宅の母屋や庇に調度類を置いて室内を装飾すること。」。ここでは、時や場所応じて空間をふさわしく整える演出行為として捉えます。

◉「しつらえ」の対象

けいはんな記念公園でのしつらえの対象は、公園を利用する人々。とくに水景園では、利用者を客人として、その時・その場所を味わい楽しんでもらいたいという「もてなしの気持ち」を動機に、職員各自が共有空間を「しつらえる」ことになります。

そして、この「もてなしの気持ち」は職人らによる修繕・改修事例にも込められています。

◉「しつらえ」の事例

ここからは、2022年8月初旬~10月末にかけて職人らがおこなった修繕・改修事例を紹介します。いずれも水景園入口付近に集中していますが、日本庭園を訪れるお客様を最初にお迎えする重要な場所となります。

①消防施設(門柱)

消火栓設備を化粧していた模倣竹(プラスチック製)が、経年劣化によって景観を損ねる状態に陥ったことを受けて改修されたもの。設備全体を目隠しすることが難しいことから、化粧を施し全体を添景物とすることを目指しました。

化粧は近年のプラスチック問題を考慮して自然由来の模倣土壁とし、最終的には公園の概念である「里のテーマ」を題材とした、貯水機能を有する棚田のデザインを有する「立体看板」として収めました。

側面には消防と縁の深い「竜」が彫られた瓦が飾られています。

公共施設にとって消火栓は大変重要な消防設備であり、管理者はその整備・点検によって常に設置時の状態を維持することが求められています。

一方、仮に外見上の老朽化が見られた場合でもその機能さえ損なわれていなければ問題として指摘されることは少なく、その意味では、景観観念上から外された空間、いわば聖域化された空間ともいえます。

ともすれば、寺社仏閣や日本庭園等の景観を損なう可能性もある消火設備を添景物へと変貌させました。

②軒下(管理事務所)

現場は庭園入口の受付棟。こちらの化粧もやはり「里のテーマ」を題材に、家屋の軒下にみられる土間(犬走り)をイメージ。単調な印象にならないように雨だれの跡を用いて「雨だれの前奏曲」としました。

職人曰く、「雨だれをつくりたかったのではなく、軒下というシチュエーションから想像した結果の産物である。」とのこと。

軒先の壁面には、公園のみどころマップやイベント案内(ポスター)が常設されています。改修前の枯山水的装飾は踏み入り難く、ポスター架け替え等の作業の邪魔になっていましたが、改修後、その憂慮が解消されました。

                                          この場所は日本庭園に入らず通行される方々にとってのいわゆる「散歩ルート」に面していることから、日常における「非日常」を表現するのに格好の空間であるといえます。

皆、足もとの「雨だれ」に直ぐには気付かないけれど、それに気付いた時の驚く様子や、発見した嬉しさを想像すると…。このような「さり気なさ」によって心を揺さぶる仕掛けは、職人技の真骨頂といえます。

 

③園路(通路)

園路上のひび割れを修繕したもの。通常は、園路と同色である補修材が選択されることが多いなか、ここでは「金継ぎ」をイメージした化粧が施されました。(金継ぎとは陶器の割れや欠け、ヒビなどの破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる伝統的な修復技法。)

大げさに表現すれば、修理後の継ぎ目を「景色」と見立て、破損前の状態と異なる趣を楽しむ「伝統」を園路に展開した作業といえます。(左官職人が「金継ぎ」色の出し方について何度も検討・試作を重ねていたことを記憶しています。)

この修繕により、来園者が道すがら職人の遊び心に触れる空間がまた一つ増えました。

④ベンチ

ベンチは、京都府より寄贈された「京都府内産木材」活用を目的に森林組合が製作したもの。日本庭園において更なる景観の魅力向上を目指し、計7基の外観を改修ししたもの。それぞれ土肌による脚部表面の化粧やシュロ縄による金属部分の化粧のほか、築地壁を参考にしたデザインや残材による化粧など、多様なアイデアが施されています。

水景園の各所に「視点場」として設置されているベンチは、庭園を巡る来園者の滞在・休憩場所となる大切な空間となります。(庭園屋外で食事が出来る場所は、これらベンチに限られている。)

これに「景」の要素が加わったことで「用」としての機能に偏っていたベンチは、手作りゆえの、思わず触ってみたくなるような添景物へと生まれ変わりました。

 

⑤垣

或るベンチの近くに「景」を兼ねた竹垣が編まれています。京都の大文字山を題材としており、その視点場から遠くに望む溜池(永谷池)は琵琶湖に見立てられています。

 

けいはんな記念公園は京都府立の施設であり、管理者は京都東山にある造園会社。これらの見立ては郷土性をさりげなく表現したものであり、職人の大文字山或いは京都に対する愛着心によってもたらされました。

現地に案内板は設置していないので皆が必ずしも気付くわけではありませんが、説明すれば「なるほど!」と共感していただける仕掛けに。その瞬間、来園者は職人と同じ「世界観」を共有したことになります。

 

⑥踊場

こちらも前述の事例(ベンチなど)とおなじく、用と景においてより品質の向上を目指して改修したもの。経年劣化による不陸(水平でない)を解消するため施工前の板石張から土間風の化粧を伴う「踊場」へと改修しました。

土間の縁にはそれぞれ既存の石(元々使われていた板石張)や瓦が再利用され、土間の一角には止め石が据えられています。

職人によると、この場所を「踊場に差し掛かる場所と踊場の先に続く石階段とをつなぐグレーゾーンにしたかった」とのこと。その先に続く石階段は、荒々しい自然が作庭意図として表現されていることから、屋内空間をも感じさせる「土間風の化粧」を用いたことで、その対比が楽しめる空間となりました。

また、止め石については「おさまりの良いそれなりの石が欲しかったが、手に入る石で最善に務めた」とのこと。手に入る石とは、同園の「巨石群」に使用されている御影石のことを指しています。

職人が話す「手に入る石」、すなわち28年前の公園建設時にはるばる岡山県犬島から運ばれて来た石は、「地消の石」へと変貌を遂げました。

これら①~⑥の事例からは、現場からの発想やデザインを大切にしながら、地形を読み取り素材と対話しイメージを膨らませる職人の姿が目に浮かぶようです。限られた資金・材料の中でやりくりし「場」をおさめるといった工夫やその思考についても忘れてはなりません。

 

◉さいごに

今回紹介した「しつらえ」は、既存物の修繕・改修を主な動機としています。「しつらえ」られる以前の物や空間を、日本庭園における伝統技術や伝統文化を感じさせる作品にまで昇華させたのは、職人の感性や美意識に拠るものといえそうです。

今日現在、作品が「しつらえ」られて1年が経過しています。それぞれ相応の時間経過によって劣化した姿も見せますが、いずれも「寂び」という美意識のもとに「育つ」と表現するに足る添景物となっています。

これら作品としての「しつらえ」を日々使い、愛でながら‥‥ 次の修繕・改修を待ちたいと思います。

 

 


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