急に暖かい日が増えて早送りのようにいろいろな花が咲きました。
初夏の気配すら感じる日が出てきて、公園の景色も賑やかです。
この時期、当公園にある紅葉谷では一斉に若葉が揃い、綺麗な青モミジが楽しめます。
秋の紅葉も見事ですが、新緑の青葉もさわやかできれいです。
水景園の紅葉谷
奥のスギとのコントラストで黄緑が映えます
紅葉谷のモミジは職人が少しずつ樹形を整えています。
自然の中では川などの開けた方向に向かって枝を伸ばしていくモミジ。上に何もない状態だと、上へ上へと伸びてしまいます。
こうならないよう、少しずつ枝を横に張り出すよう剪定しています。
一方で、切りすぎてしまうと木が弱るので、樹勢をみながら長い年月をかけて形を整えます。
モミジの枝の剪定痕
真ん中の大きな枝を剪定した痕があります。これはまだ最近切ったところ。
古い剪定痕
少し年月を経ると傷痕の周りの樹皮が巻いてきます。カルスというかさぶたのようなものだそうです。
植物の生長にあわせた管理の手間を少しだけご紹介しました。
その手間やかかる年月、あるいは自然がつくった造形など、庭木の樹形へのこだわりは昔も変わらなかったようです。
そしてその貴重さと人の欲が絡むと・・・。今日はモミジ(カエデ)に関連した少し暗めの昔話をご紹介します。
※記憶に頼った記述のため、不確かな内容ですがご容赦ください。
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昔々ある所に、二人の大地主がおりました。庄屋とお寺の和尚でした。
この村の土地は百姓から二人が買い上げ、百姓の土地は残っていないというほどの地主でした。
二人は仲が良く、しばしば一緒に寄り合ってはそれぞれが集めた珍しいもの、貴重なものの見せあいなどをしておりました。
ある日、和尚は庄屋を寺に招き、新しい庭木をみせました。
何百年という時を重ねたような、それはそれは見事な楓の古木で、見事な葉を幾重にも茂られせた九重の楓(ここのえのかえで)でした。
古木とも九重ともいきませんが…
枝葉が何層かになって立体的になっています。九重とはこんな感じでしょうか。
「見事な楓じゃ・・・」
庄屋はこの楓が欲しくてたまらなくなりました。そして、自分が持っている土地と交換でも良いからこの楓を譲ってほしいと和尚に頼みました。
しかし和尚は「これに比べれば土地や家屋敷など何の価値もありません」と断ります。
庄屋はさらに「和尚の言うことなら何でも聞く」と言って頼みますが、和尚は「見たくなれば寺にくればいつでもみられるではありませんか。」と結局譲ることはしませんでした。
庄屋はこの楓が忘れられず、その思いは日に日に募っていきました。
そして思い余った庄屋はこっそりと人をやって、楓を掘らせ自分の庭に植え替えさせてしまいました。
朝、和尚が今日も九重の楓を楽しもうと障子を開けると、九重の楓がなくなっています。
和尚は驚き、これは庄屋の仕業に違いないと思いました。
庄屋のもとを訪ね、和尚は「最近、楓を見に来られぬのでどうされたかと思いましてな」と話を切り出しました。
すると庄屋は「実は最近私も瓜二つの楓を手に入れましてな。お目にかけましょう」と庭にある楓をみせました。
和尚は「これほどの楓が世に二つとあるはずがないでしょう。これは私の楓です。」と言いますが、庄屋は「これがあなたの楓だという証拠はあるのですか。」と白を切りとおします。
怒った和尚は寺に帰ると寺の前に住む老人を呼び、「長者にしてやるから、庄屋の家の土を一握りとってきてくれ」と言いますが、老人は「人様の家のものをとってくるなんてできない」と断ります。
仕方なく和尚は夜を待って自分で忍び込み、土をとってくると怪しげな祈祷を始めました。
次の日の朝、庄屋の家では馬が一頭死にました。
そして次の日にはまた一頭と死に、何頭もいた馬が数日のうちにすべて死にました。
これは何事かと思っているところへ、和尚が断食して怪しげな祈祷をしている噂を耳にします。
庄屋は、これは九重の楓を盗んだことへの仕返しだと思い、こっそりと夜のうちに楓を寺へ戻させました。
しかし、何度も植え替えられた楓の古木は二人の欲の深さを憐れむかのようにまた恨むかのように枯れてしまいました。
こののち、庄屋の家には不運が続き、家はつぶれてしまいました。また、禁断の呪いを使ったためか寺も同じように没落していったということです。
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和尚と庄屋のやりとりと、楓が枯れる時の「憐れむかのように恨むかのように」という表現が非常に印象深いお話でした。
気に入ったものを自分のものとしたいというのは自分の中にもあるなかなか抗えない心ですが、行き過ぎた欲の攻防の末に二人とも身を滅ぼしてしまい、またその中で楓も枯れてしまう…自戒しなければと思います。
この話の背景には、古木が持つ魅力があります。
自然の造形美を目指して、枝ぶりを整えていく。紅葉谷のモミジはそんな長い道のりの途中にあります。
樹形がどう変わるのか。そんな気長な目線でみていただくのも一つかもしれません。