ウメの花が散り始め、サクラのつぼみが膨らみだす頃、里山では春の花が咲き始めます。
スミレやレンゲなど春を連想する花は数ありますが、芽ぶきの森においては野生のツツジがその代表です。

アカマツ山を中心に咲き競うコバノミツバツツジ
かつて京都の山々では、春になると「紅萠ゆる」と称されるほどに色鮮やかなツツジが咲き競う景色が見られたそうです。
家庭用燃料としてガスや石油が普及するまでは薪や炭が主な燃料だったため、高木は大きく育つ前に頻繁に伐採されており、
野生のツツジも例にもれず焚き付け用の柴として、幾度にもわたる刈り取りを受けていました。しかし、ツツジは刈り取りを受けても根や地上部は生き残り、切り口の周辺から何本もの枝を発生させることができます。

刈り取り後のモチツツジ。園内の切り口周辺から、たくさんの枝を伸ばしている
最初は細い枝ですが、翌々年には花を咲かせることができるので、明るい林の足元に幾重にも咲くツツジはさぞ見事な光景だったことでしょう。
残念なことに近年では「紅萠ゆる」景色を見ることが難しくなっており、その原因は大きく次の三つと考えられています。
①刈り取りによって新しい芽が吹くサイクル(萌芽更新)がなくなり、株の老齢化が進んでいる
②里山の管理放棄により大きく育った樹木が影になり、花を咲かせるのに必要な光が得られず、種をつくることができない
③下草の繁茂や落ち葉の堆積などにより発芽に適したコケ地や裸地などが減少し、次の世代が育たない
けいはんな記念公園では、里山管理を行うボランティア団体「コナラ会」の協力を得ながら、ツツジの咲く綺麗な里山を維持するための管理に取り組んでいます。
場所ごとに管理手法や頻度を調整しながら、伸びすぎた枝や育ちすぎた株を刈り取り新しい芽の発生を促進するとともに、刈り取った枝は柴としてイベントなどに活用しています。

伸びすぎた枝や育ちすぎた株を刈り取り、新しい芽の発生を促進する

刈り取った枝はひとまとめに束ね、柴としてイベントなどに活用する

小さな背負子をつかった柴刈り体験
また、ツツジがたくさんの花を咲かせるためには多くの光が必要で、おおむね30-40%以上の相対照度(林外の明るさを100%とした時の林内に届く光の量)を必要とします。
暗い場所では葉ばかりになってしまうため、大きく育ちすぎた樹木などを伐採し、光環境を改善することで花数を増やすことができますが、
翌年の開花に間に合わせるなら6月ごろまでに明るい場所にしてやらなければいけません。

2025年3月28日撮影:暗い場所では花が咲かず、葉だけが生長してしまう。

2025年3月28日撮影:日当たりの良い場所では枝一杯に花を咲かせる。
さらに、ツツジの種は風で飛ばされたり雨で流されたりするほど小さく、落ち葉などがたまっている場所では種が土壌に到達できないこともしばしばです。
母樹が近くにあり種が発芽が見込める場所は、熊手やブロワーを使って崖地やコケ地の落ち葉を除去し、好適な環境に保つことも大切な取り組みのひとつです。

落葉のたまりにくい崖地には、種から育った実生がみられる。
ここではいくつかの代表的な取り組みを紹介しましたが、ツツジの咲く綺麗な里山を管理するのはただやみくもに作業をすればよいというものではありません。
関連する書籍や論文を読み、専門家のアドバイスを受けながら試行錯誤の中、自然と向き合う毎日です。
生き物が相手なので思い通りの結果にならないことも多いですが、それだけに狙いどおりの景色に仕上がったときの感動もひとしおです。
4月から5月にかけて芽ぶきの森はツツジの花盛りを迎えます。
今となっては珍しくなった「紅萠ゆる」里山をぜひ歩いてみてください。