公園が開園して、今年でちょうど30年。
その節目の年に、水景園に架かる「観月橋」で、リニューアル工事が進められています。

今回のリニューアルでは、橋脚の塗り直しに加え、橋の両側に設置された壁面のカーボン板が新しいものに交換されました。
印象的なのは、そのカーボン板が本来の透明な状態に戻ったことです。
長年の風雨によって曇っていた視界が、今ではすっきりと晴れ、かつての「見通しのよい観月橋」の姿がよみがえったかのように感じられます。
公園開設当初からあるこの橋が、当時の景色を再び映し出してくれていることに、深い感慨を覚えます。

リニューアル前のようす ▼  

●観月橋について

全長123m、高さ10m、幅4mの歩廊橋で、観月楼へと続いています。
橋脚は京格子をモチーフとしており、橋そのものも庭の景物の一つとして楽しめる設計になっています。
「観月橋」という名前は、一般公募によって名付けられました。

 

●水景園における「橋」の意味

観月橋は、機能的には観月楼へと続く主動線ですが、同時に橋の左右で異なる空間(里棚田と巨石群)を仕切る結界としての役割も果たしています。
設計者によれば、観月橋は「中空の空間」として庭園全体を見渡しつつ、地上(水面や岩壁、樹林、背後の山)と天空とをつなぐランドスケープを創出しているとのことです。

里棚田の景色(春) ▼

巨石群と紅葉谷の景色(秋) ▼

ガイド資料から(中空の空間 / 観月橋) ▼

 

●「用」と「景」、ふたつの役割

【「用」】

観月橋は、水上を渡るための通路としての機能=「用」だけでなく、日本庭園の景観を構成する重要な要素として、鑑賞者に特別な体験をもたらす存在=「景」も担っています。

上の写真は「観月橋ルート(左)」と「巨石群ルート(右)」。
この二つの道は、目的地への最短経路として「時間を短縮し、視覚的な景観を提示する橋」と、蛇行し凹凸のある「時間を享受し、より身体(五感)で庭園を味わう園路」との対比を成しており、回遊式庭園ならではの多様な楽しみ方を表現しています。

【「景」】

橋の存在が、景色や風景に影響を与えている▼

「紅葉のライトアップ」イベント時には、橋にも照明が当てられる▼

「~越し」の景色。フレーミングによって奥行き感を増す▼

 

「鑑賞者」による橋上体験▼

 

●工事中に感じたこと ~結界について~

橋脚の塗り直し工事の際、一時的に防塵シートが橋全体を覆い、しばらくの間、向う側の景色が見えなくなる時期がありました。

この、いわば閉ざされた空間は、私にとっても初めての経験でしたが、あらためて気づかされることがありました。それは、「結界」という概念は、必ずしも視界を遮る物理的な壁だけでつくられるものではない、ということです。
神社の注連縄や鳥居がそうであるように、日本庭園では、特に「ゆるやかな結界」という考え方が大切にされています。
視覚的・心理的・象徴的な要素が重なり合って形成される結界について考える、貴重な機会となりました。

工事が完了する間際のようす。徐々に橋脚が露わになりホッとする…▼

 

●さいごに

観月橋のリニューアルが進むこの節目の年に、改めてその魅力に目を向ける機会となりました。
30年という歳月の中で、橋も風景も、そして訪れる人のまなざしも少しずつ変化してきたように感じます。

今回のリニューアルでは、橋の両側にある壁面が透明な姿を取り戻し、橋を渡る誰もが目の高さで景観を楽しめるようになりました。とくに小さなお子さんや車いすをご利用の方にも、広がる景色を身近に感じていただければ幸いです。

来年にかけて橋板が順次リニューアルされます。 (写真は、新旧の橋板が接する境界部分)▼

 

 


< 過去の記事 公園よろず手帖 トップ