モミジの季節が終わり、山の黄葉もすすんで多くの木々が葉を落とす時期になってきました。徐々に寒々しい景色へと移っていきます。

芽ぶきの森の周遊路  秋から冬へ

さみしい心持にはなりますが、凛とした冬の景色もそれはそれでよいものです。

 

景色の移ろいと共に、最近ではめっきり虫を見かけることは減ってしまいました。
今回はそんな名残惜しさから、虫にまつわる昔話「むしまつり峠」をご紹介します。

 

※記憶に頼った記述なので間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。

※むしまつり峠は鳥取県のお話のようです。以下の内容とはかなり違いましたので、私の知っているお話はかなり脚色されたものかもしれません。

 

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昔々あるところに、「ありがたやのじじ」と呼ばれるおじいさんが一人で暮らしていました。
じじは何をするときも「ありがたやありがたや」と感謝するのでした。
じじはとても貧しい暮らしをしていましたが、どんなに貧しくても生きていけるだけでありがたいと日々を暮らしていました。

じじは心優しく、小さな生き物も殺しませんでした。
じじは「人間死ぬのが一番おそろしい。だから他の生き物も同じはずだ。」と考えていました。
じじには、身の回りの虫たちが生きていることもありがたいのでした。

ブログ作成日(12月10日)にみつけた虫  寒い中を華奢な体でうろうろ。

 

じじの仕事は頼まれた荷物や手紙を届けることでした。
じじはこれまで品物を届け損ねたことはなく、頼まれた品物をとても大事にして届けていました。

 

ある日、じじは仕事を頼まれ、山向こうの村へと出かけました。
峠に来ると、じじはいつも山の神様に旅の無事をお祈りしていきます。
近頃は道中の山に山賊が出るという噂があり、今日は自分の命と荷物の無事を念入りにお祈りして、山に入っていきました。

木々が生い茂る森に入り、旅慣れたじじもおびえながら進んでいきました。

 

夕暮れの山道  木漏れ日はあってもいち早く薄暗くなり、不安をあおります。

大木の下に差し掛かった時のことです。

木の上から「やい、じじぃ!命が惜しければ荷物を置いていけ!!」と大きな声が響きました。
じじは腰を抜かしてしまいますが、「命ばかりは・・・、それにこの荷物は頼まれた大事なものだからあげるわけにはいかんのです」と許しを請います。
しかし、山賊は「三つ数える間に荷物を置いていかなければ命をとる!」と言い、数を数え始めます。
じじは震えあがって、神様に「どうか荷物と命をお守りください。助けていただいたならば、かならず祠を建ててお祀りします」と一生懸命祈りました。

すると、じじに神様の声が聞こえます。
「草鞋をぬいで頭にのせるがいい。そうすれば命は必ず助けてやる」じじが草鞋を頭にのせた時、山賊が襲いかかってきました。

切りつけようとした山賊の目の前で、じじは忽然と消えてしまいました。
そしてじじが持っていた荷物は宙を舞ってどこかへ飛んで行ってしまいました。
これを見た山賊は「神の祟りじゃあ!」と、その場から逃げ去ってしまいます。

 

じじは小さなわらじ虫になっていました。
じじは虫になってしまったことを不満にも思わず、たったひとつの命が助かったことに感謝し、約束通り祠を建てました。
しかし、その祠は虫になったじじが建てたので、人の目には見つけられないほど小さいものでした。

虫の祠(イメージ)  虫になったじじはどんな祠を作ったのでしょう・・・。

 

それ以来、この峠を「むしまつり峠」と呼ぶようになったということです。

 

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めでたしめでたしと言っていいのかどうかはわかりませんが、じじは満足していたのでしょう。

 

ヒメクロオトシブミのゆりかごづくり  虫たちは色々器用です。オトシブミの仲間は葉っぱで幼虫が育つゆりかごを作ったりします。

 

もしかしたらこの公園の森にも虫が作った祠がひっそり建っているかもしれません。

 


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